随分と大げさな記事タイトルになってしまったが、久しぶりにブログを更新してみることにする。
司法書士事務所を新規開業するのにあたり、相続登記やその他の相続手続きをメインにして業務をおこなっていきたいと考える人も多いだろう。
ウェブサイトやブログを公開してそこから相談が入るようになれば、銀行や不動産業者への営業活動などをおこなわずとも自分のペースで業務がおこなえるというわけだ。
私自身も20数年前、司法書士試験合格から1年のみの司法書士事務所勤務を経て、独立開業した当時には同じようなことを考えていた。
そして、現実にウェブサイトからの集客をメインして、今まで何とか生き残ってくることができているわけだが、当時と今とでは全く状況が違うはず。
当時はウェブサイトによる集客をおこなう司法書士はごく僅かだったのが、現在では司法書士事務所によるウェブサイトはネット上に溢れている。
そのため、現在では新規開業する司法書士がウェブサイトを開設したとしても、そこから集客するのは非常に難しいだろう。
と、こんな話は分かりきっているという方も多いだろうし、昔は良かった系の自慢話をしても仕方ない。今からだって、やりようによってはネットで集客できるんだという新規開業者もいるはずであるし。
それならば、相続登記やその他の相続手続きの集客に成功すれば、それだけで司法書士として食っていくことができて、さらには儲けることもできるのだろうか?
司法書士白書2024年版によれば、令和4年4月1日現在の司法書士数は22,097人であった。
これに対して、権利に関する登記事件数を見ると、相続その他一般承継による所有権の移転は、土地1,136,561件、建物183,788件の合計1,320,349件であった。
したがって、相続その他一般承継による所有権の移転の登記事件数は、司法書士1人あたり約60件となる。
ただし、司法書士1人あたりに相続登記の依頼が年間60件あるという話ではなく、あくまでも登記事件数が60件であるということなので、依頼件数でいえばその半分もないはず。
一般的な相続登記の依頼では土地と建物がセットになっている場合が多いから、建物の登記事件数183,788件を司法書士数22,097人で割れば1人あたりは8.3件になってしまう。
そうだとすると、相続登記1件の依頼で得られる報酬が10万円であったなら、年間の総報酬額は100万円にも満たないことになる。
もちろん、相続関連の業務をメインにするとしても、相続登記以外の依頼も当然あるわけだが、それにしたって厳しい現実である。
ここまで書いてきて、さすがに件数も報酬額も低すぎるような気がするが、単純に数字だけ見れば上記のようになるはずだし、現実ともそう大きな乖離はないだろう。
ただ、相続メインで業務をおこなっており、実際にウェブサイトからの集客もできている場合には、上記の平均数より依頼件数はだいぶ多いはず。というか、そうでなければやっていけない。
結局、他より相当多く集客できなければ、相続登記メインで司法書士事務所を運営していくのは厳しいということ。
ならば、遺産承継業務や民事信託にも積極的に取り組んで、相続関連業務1件あたりの単価を上げていけば良いと考えるかもしれない。
でも、少し考えてみればわかることだけれども、相続登記の司法書士報酬10万円だって高いと思う人は多いし、司法書士に頼まずにセルフで登記をしようと考える人も多くいる。
そんな中で、その何倍もの費用を支払って司法書士に依頼しようと考える人がどれだけいるのだろうか。
本当に納得して高額な費用を払ってくれる人もいるとしても、半ば騙すようなかたちで、高額な費用の発生する業務へ勧誘するようなやり方は絶対にすべきではない。
つまり、民事信託などのスペシャリストとして集客を出来るような人は別だとしても、これから開業する人が「1件当たりの単価を上げることによって相続関連業務で儲けたい」というのは基本的に無理なはず。
思いつくままに書いていたら、まとまりのない話になってしまったし、「どんな広告宣伝をすれば相続登記の相談で食えるのか」というテーマとは逸れてしまったが、相続登記の相談で食っていくのは大変ですねというのが結論。
ちなみに、令和4年のデータについても、相続登記義務化を前にしてすでに件数が増えている時期なので、今後さらに激増するということもないだろう。
さらに、実務経験なしに即独して、相続登記をどんどん受けていくのもあまり現実的ではないと思う。
戸籍を読み解いて相続人を確定させるのだって簡単なことではないし、何代にもわたって相続が開始しているような場合などはなおさら難しい。そんな相続登記の依頼を受けたとして、ちゃんと処理できるのですかというお話。
それ以前の話として、経験なし自信なしの状況で相談を受けたとして、手続きを依頼してもらうのも難しいことであるし。だったらどうすれば良いんだという話かもしれないし、老害の戯言だと思ってもらっても良いですけど。