司法書士と弁護士とでは、業務範囲が重なるところが多少はあるとしても、多くの司法書士の主要業務である不動産登記において競合することはないのであるから、新規開業者が食えるのかどうか判断するのに際して、弁護士の場合と比較しても現時点ではあまり意味はないだろう。

しかしながら、弁護士の収入が減っていくとすれば、これまでは弁護士があまり取り扱わなかったような業務についても、弁護士自らが手がけていくようなケースも増えていくかもしれない。

たとえば、かつては熟慮期間内の単純な相続放棄の手続きなどでは、ご相談者から「弁護士に相談したところ、わざわざ弁護士に依頼するまでもなく、司法書士に書類作成を頼めばそれで大丈夫だと言われた」というような話を伺うことも頻繁にあったように思う。

そのような例はごく一部だとしても、ウェブサイトによる集客などではやはり業務範囲が重なるところが少なからずあるのだし、さらにいってしまえば、弁護士が食えないのに司法書士は安泰なんはずもないのだから、参考にすべきであるのは間違いない。

というわけで、司法書士にとっても参考になるのが、『司法試験合格発表の影で・・・ “新人弁護士年収200万円未満”の残酷な将来(幻冬舎ゴールドオンライン)』とのタイトルの記事である。

これによれば、「弁護士経験5年未満(司法修習70期以降)の所得の平均値は519.3万円、中央値が461万円」であるとのこと。弁護士経験5年未満の所得の平均値が500万円なら、司法書士よりはだいぶ良さそうに感じるものの、内訳をみると「所得200万円未満が11.9%」もいるのだ。

弁護士でも司法書士でも、所得が200万円未満ではその資格を取ったことで「食えている」とはとても言えないだろう。そして、新人のうちは仕方ないとしても、弁護士全体の収入や所得もこの10年で大幅に減少しており、しばらく頑張れば誰もが収入が伸びていくという状況ではないようだ。

また、ここからは私個人の私見(想像?)であるが、弁護士が新規開業した場合の受任ルートとして、公的機関(弁護士会、市町村など)主催の法律相談会、法テラス、国選弁護人など最低限の仕事を得る方法が存在する(そのような受任ルートばかりだと、労力のわりには食えないという状況に陥ることもあるのだろうが、あくまでも司法書士の場合との比較として)。

これに対して、司法書士には上記のような仕事が入るルートがほとんど存在しないので、開業したものの仕事が全くないということもあり得るだろう。

司法書士の場合、公的機関の主催による相談会はそれほど頻繁にないだろうし、そもそも、司法書士は相談会での直接受任は原則できないはず。よって、自分で会場を借りて相談会を開催するような方法を除いては、相談会で仕事を得るという方法はとれない。

司法書士へ法テラスからどんどん紹介が来るということもないだろうから、他に考えられるのは、リーガルサポートの会員になって成年後見を頑張るということくらいか。

なお、ここに書いたのは、その場に行ったり何らかの団体に登録などすれば仕事が入ってくるという受任ルートについてであるが、司法書士にはそのような受任ルートがほとんど存在しないと思われるので、下手をすれば開業しても全く仕事が来ない可能性もあるということだ。

もちろん、通常の営業活動や紹介、ウェブマーケティングなどにより仕事が得られるならばそれで問題ないわけなのだけれども、それで普通に仕事が入ってくるならば、所得が200万円未満なんてことにはならないのであり。

営業活動を頑張って成功すれば儲かるけど、そうでなければ所得は200万円未満なのだとすれば、わざわざ難しい試験に合格してから開業するようなものではない。

それでも何の資格も不要な業種と比べれば、はるかに仕事を得やすい職業なのであるのは間違いないのだろうけれども、だからといって皆が満足に食えているわけではないのも事実。後は、前回の記事にある司法書士白書のデータや、今回紹介した記事などを参考にしつつ、各自検討してみてください。