相続登記に使う遺産分割協議書は極力こちらで作成したものに署名押印をしてもらうようにしている。相続人ご自身が作成したものはほぼ100%どこかに記載の誤りがあるし、そもそも遺産分割協議書の作成は不動産登記申請用のソフトで作成しているのだから手間がかかるものでは無いし、依頼者が持参したのをチェックする方がよっぽど時間がかかる。

しかしながら、初回のご相談時にすでに遺産分割協議書を作成し、相続人全員の署名押印を済ませているというケースもある。非常に問題なのは、相続人全員から再度の署名押印をもらうのは困難であるというのに、訂正印(捨て印)も押しておらず、しかも記載に内容に誤りがある場合である。

司法書士の目からすれば、こんなに間違いだらけの遺産分割協議書へ相続人全員の署名押印を一発勝負でもらうなんて正気の沙汰とは思えないときもあるのだが、作成者ご自身は自信満々で「協議書はあるので」などと仰るので困ってしまう。せめて、署名押印を済ませる前に、作成した遺産分割協議書をチェックさせてもらえれば良かったのだが、そんなことを言っても後の祭り。

さて、今回の遺産分割協議書は概ね良く出来ているのだが、間違った余計な記述があるというもの。具体的には次のようなことが書いてある。

被相続人の最後の住所は「○○県○○市××番地」であり、登記簿上の住所は「○○県○○郡○○町××番地1」となっているが、被相続人の除住民票、戸籍の附票などを取得してもそのつながりを証することが不可能である。しかし、被相続人が所有者であることに相違なく、万が一の場合には相続人全員がその責任を負うことを誓います。

文章はだいぶ違うが、大意はそんな感じ。さらに、「被相続人の最後の住所は○○県○○市××番地であり」と書いてあるが、この住所からは生前に転居しており「最後の住所」ではないのだ。

1番の問題は、ご依頼を受けた後に被相続人の除住民票を取得してみると、登記簿上の住所の記載がちゃんとあったこと。被相続人の最後の住所と、登記簿上の住所のつながりを証する書面が所得不能なんて事はまったく無く、死亡の記載のある住民票除票を取るだけで繋がってしまった。

余計な記述があるだけで、現実には被相続人と登記簿上の所有者の同一証明に問題は無いのだから、この遺産分割協議書により相続登記を申請しても問題ないだろうとは思うもののちょっと心配。さらに、「被相続人の最後の住所は○○県○○市××番地であり」と書いてあるのが、最後の住所でないというのも気がかり。

本来ならばこのような明らかに誤りのある遺産分割協議書を添付しての登記はしたくないので、こちらで作成した遺産分割協議書に相続人全員の署名押印をいただきたいところなのだが、ご依頼者の希望としては今ある遺産分割協議書で登記して欲しいとのこと。

そこで、もしも駄目だと言われた場合は遺産分割協議書を再度作成することを承知してもらったうえで、法務局への事前照会をすることにした。結論としては、余計な記載があっても別に問題ないとの回答が得られたのだが、どこの法務局でも同じ判断がなされるのかは少し心配なところ。

そして、余談だが遺産分割協議書は自分で作るから費用が安くならないかと聞かれることもたまにある。最初の方にも書いたが、司法書士事務所にとって遺産分割協議書の作成などわけないのだし、相続人が作成した協議書をチェックする方がよっぽど手間がかかるのであるから、持参した遺産分割協議書を使用する場合には費用を加算したいくらいである。

そんな話は、一般の方にはなかなか分からないところだとは思うが。たしかに、定型的な相続登記では費用をもらい過ぎに感じる場合もあるが、難易度が高いものでもそれほど費用の加算はできないので、やはり経営が成り立つ範囲である程度一律の費用設定にせざるを得ない。

それこそ、タイムチャージにでもすればいいのかもしれないが、そうすると一つの不動産についての相続登記でも費用の幅が何倍、何十倍にもなりかねずそれもまた理解を得るのが難しいであろう。なんだかよく分からない愚痴のような投稿になってしまったが、今回はこんなところで。