消滅時効の援用

債務整理業務の1つとして、借金の消滅時効の援用についてのご相談、ご依頼を受けることがある。はじめから積極的に宣伝告知をしていたわけではなく、いつの間にかご相談が増えてきた業務である。

銀行、クレジット会社、消費者金融などからの借金は商事債権として5年で消滅時効にかかる。消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する(民法166条1項)。権利を行使することができる時とは、請求をおこなえる時のことであり、請求をおこなえるのは弁済期が到来した時であるから、結局、消滅時効は弁済期が到来した時から進行するということになる。

弁済期が到来した時と言っても一般の方には分かりづらいので、消滅時効が成立するのは最後の返済の時から5年間と考えておけば良いだろう。現実には、毎月の返済期日までに返済していたのであれば、最終返済日の翌月の返済期日が経過した時から消滅時効が進行するわけだが、最後の返済の時からと考えておけばまあ間違いは無い。

消滅時効が完成しているのであれば、時効を援用する旨を債権者に伝えるのみで業務は完了する。具体的には、司法書士(認定司法書士に限る)が代理人となり、債権者に内容証明郵便(配達証明付)を発送することになる。電子内容証明サービスを使えば事務所に居ながらにして業務が完了するわけだ。

消滅時効が完成していないとき

最後の返済の時から明らかに5年以上が経っているのに、今になって請求書(督促状)が届いているようなケースでは、その書面に書かれた最終弁済日を確認する程度で事前調査なしに内容証明を送付している。

最終弁済日が不明な場合などは、債権者に対して取引履歴開示請求をおこなうこともある。そして、最終弁済日から5年が経過していることが確認できたら、消滅時効援用の内容証明郵便を送るわけだ。

消滅時効が成立しているか事前に確認できるのであれば、まずは取引履歴の開示請求をしてみて、消滅時効が成立している場合には時効援用をおこない、時効でないならば5年経つまで待てば良いようにも思える。しかし、少なくとも当事務所ではそのようなやり方はおこなっていない。

調査の結果、消滅時効が成立していないことが判明したら、支払うこと前提に和解交渉をおこなうか、支払いが困難なのであれば自己破産などの手続きを検討することとしている。取引履歴の開示請求をしたのみであれば、債務承認に当たるわけではないから、その後の時効完成を待つこともできなくはない。

けれども、取引履歴の開示請求をおこなうといういことは、債権調査をおこなうのと同義だとも考えられるから、債務のあることが分かったならば放置することは許されないと考えている。そこで、消滅時効援用をご依頼いただく際には、時効でなければ支払うことを承諾してもらうのを条件としている。

債務整理開始後の消滅時効援用

話は少し違うが、弁護士や認定司法書士に債務整理の依頼をしたが、費用の支払いが出来なかったために辞任されてしまい、そのまま長い年月が経過してしまったというケースがある。この場合、当事務所で受任したうえで、消滅時効援用をすることもある。

これも受任通知を送った後に消滅時効の援用をしているという点だけみれば同様の事例となるが、違うのは当初の受任者が別人であるということ。つまり、自分で受任通知を送っておきながら、債務整理手続きを進めることをせず、消滅時効の完成を待つという手法を採るべきではないと考えているわけである。

債務整理を開始し和解提案をおこなっているとすれば、それは債務承認とみなされるかもしれない。しかし、依頼後に全く費用の支払いをしていないようなケースでは、債権者との交渉は一切おこなっていないのが通常であろう。そこで、当事務所へ相談があった時点で、消滅時効が完成しているのであれば、時効援用をおこなうのは何ら問題ない。

長期延滞後に和解する場合の条件は

消滅時効援用をした後に、債務名義のあることが判明したとする。このような場合、元金を大幅に超えるような遅延損害金が付加されているのが通常であるが、どのような条件で和解することになるのだろうか。

これは相手方次第であるのだが、一括で支払いをするのであれば元金(または元金に近い金額)での和解に応じる債権者も多い。しかし、分割払いの場合には、利息や損が金を含めた全額の支払いを求めてくるケースが多いと思われる。ただし、一括払いでかつ利息損害金を付加した全額でなければ、絶対に和解しないと主張する債権者もあるので要注意。

消滅時効の援用をするだけであれば、内容証明を送るだけなのだから、認定司法書士であれば誰でもできること。けれども、時効援用が認められなかった場合に、どのように決着を付けるかが問題。任意整理を手がけている認定司法書士であれば債権者との交渉は問題ないだろうが、債務整理の経験に乏しいと手に余るかもしれない。

消滅時効の援用など主要業務には当然なり得ないものではあるが、気付けばかなりの数を手がけてきた。どんな業務についての需要が多いのかを、その時々で敏感に察知していくことも大切。