2018年5月29日付の朝日新聞デジタルに『土地を放棄できる制度、政府が検討 要件・引受先議論へ』との記事があった。

政府は、土地の所有権を放棄したい時に放棄できる制度の検討を始めた。人口減で土地の活用や売却に困る所有者が増えていることが背景にある。防災上の必要性など一定の要件を満たせば、所有者が土地を手放せるようにする方向だ。放棄された土地の引受先などが課題になりそうだ。

所有する土地がいらないからといって自由に所有権の放棄ができるとなれば、放棄された土地の管理にかかるコストを誰が負担するのかという点が当然問題になるはず。

平地にある更地ならば管理のコストなどたいしてかからないだろうが、放棄したいというからには簡単には買い手が付かないような土地であるはず。よって、放っておくと崖崩れが起きそうだとか、山火事が起きそうだとか、いろいろ問題のある土地も含まれるのだろう。

記事中には、『廃棄物物処理のように、土地の所有者が一定額を納めれば放棄できる仕組みなどを検討する』ともあるが、放棄するためにかかる費用が高額なのであれば結局そのような制度は利用されないことになるだろう。

これからは土地がどんどん減っていくのだから、今までに人が住んでいた土地だってどんどん空き地になっていくのは間違いない。都市部であったとしても過剰に供給されたマンション等がすでにあるのだから、誰も使わなくなった土地が増えていくのも当然。

それらの問題をトータルで考えることなしに、土地を放棄できる制度だけを作っても意味が無いように思えて仕方ない。無秩序な宅地開発やマンションの建設をこれまでどおり続けていきながら、不要な土地は放棄できるとなったら将来の日本はより悲惨な状況になるかもしれない。

自分たちは住まないし、誰も買い取ってくれないような土地を、国(地方自治体?)が引き受けたとしても、有効活用できる場合など殆どないだろう。地方の過疎化が進んでいる地域では、放棄された土地だらけになったりするのかもしれない。そして、国有地であることを示す看板がそこここに立っているような状況となるのだろうか。

ところで、2018年5月24日付、朝日新聞デジタルの下記記事によれば、ドイツの民法には「所有者が放棄の意思を土地登記所に表示し、土地登記簿に登記されることによって、放棄することができる」(928条1項)との規定があるとのこと。

土地を放棄できる国ドイツ 「負動産」捨てられない日本
放棄された土地は、どこかに所有させなければならない義務もないため、ほとんどは「無主地」として管理されるが、そのコストは行政が負担せざるを得ない。ドイツ国内でも地域によっては、無主地の増加による行政の負担増が問題になっているという。

今では放棄地の増加が問題になっているようだが、日本で同様の制度ができたら放棄地が一気に続出することになるだろう。人口減少が加速化しつつある日本で、土地放棄の制度が今からできれば、ドイツの場合とは全くインパクトが違うはず。

不要な土地を相続放棄できるか

当事務所では、相続放棄の手続きを多く取り扱っていることもあり、亡くなった人名義の土地を引き継ぎたくないから相続放棄したいとの問い合わせをいただくことも多い。

もちろん、亡くなってから3ヶ月以内であれば、どのような理由であっても放棄はできる。また、存在すら知らなかった土地についての滞納している固定資産税の支払いを、相続人が突然求められたというような特別な事情があるときには、3ヶ月経過後であっても相続放棄の可否を検討する余地はあるかもしれない。

しかし、単に土地がいらないからといって放棄することは現状では認められない。それが自由に放棄できるとなれば、田舎の誰も住んでいない土地とか、大昔に購入したけど利用価値がない別荘地や、値上がりを見込んで購入した山林など、放棄する人が多いだろう。

そこに司法書士が関与する余地があるのかどうかは分からない。しかし、亡くなった人名義の土地であればまずは相続登記をするか、最低限でも相続人全員による同意書などは必要であろうから、専門家として何か出来ることもあるのかもしれない。

それでも、どんどん土地が捨てられていったとすれば、司法書士の仕事などどんどん不要になっていくということか。

相続放棄の基本