平成16年に全部改正され、平成17年3月7日に施行された不動産登記法(以下、「新法」とする。)により、この10年ほどで司法書士の業務は大幅に変化した。近年の司法書士試験合格者だと旧法時代のことを知らない人も多いと思うので、大きく変わった点を紹介したいと思う。

1.不動産登記における出頭主義の廃止

新法では、オンライン申請の導入に伴い、出頭主義が廃止された。このことは司法書士試験の学習をした者なら誰もが知っているであろうが、書面申請の場合でも登記申請書を郵送により提出することが出来るようになったことが、司法書士の業務に革命的な変化をもたらした。

旧法の時代、登記申請時と完了時の2回は必ず管轄法務局へ出向く必要があった。ただ登記申請書を提出するためだけに管轄法務局へ行かねばならないわけだ。そして登記完了時も、ただ登記済証などを受け取るためだけに管轄法務局へ行かねばならない。

もちろん、司法書士本職が行くわけではなく補助者が法務局回りをするわけだが、当時は少し大きな事務所だと下っ端の補助者は毎日ひたすら法務局巡りをしていたものだ。

それが新法により、オンラインまたは郵送による登記申請が可能となったため、司法書士業務は大幅な省力化が可能となった。つまり、以前よりも補助者の数も少なくて済むようになったわけだ。

2.オンラインでの登記事項証明書の請求が可能に

登記簿の電子化が完了したことにより、法務局の管轄に関係なく登記事項証明書を取得できるようになった。電子化される前であっても、郵送により登記簿謄本を郵送により請求することはできたが、たとえ速達で請求したとしても数日はかかる。

そこで、急ぐ場合には補助者が管轄法務局へ出向くか、または、管轄法務局の近くにある司法書士事務所へ謄本の取得依頼をすることもあった。登記簿謄本を取得してファックスで送信してもらうわけだ。同業者同士なので1通1000円などの手数料で請け負うのが通常だったと思われるが、頼む方も頼まれる方も時間のロスが大きい。

ただ、法務局の目の前にあるような司法書士事務所では、登記簿謄本の取得代行により得られる手数料だけで補助者の給料くらい賄えた時代もあったそうな。どこまで本当の話か分からないが、司法書士にとっての古き良き時代といったところか。

また、不動産決済への立会いの日の朝には、補助者が管轄法務局に行って登記簿を閲覧するのも日常業務の1つであった。ただ登記簿を閲覧する(見る)ためだけに管轄法務局へ出向くのだ。そして、登記されている内容に変わりが無いことを確認したら事務所に電話で報告する。これによって、決済が実行されることになるわけである。

それが今ではインターネットで登記情報を取得できるようになっているのだから、これも司法書士業務に革命的な変化をもたらしたといえる。なお、ノートパソコンを持ち歩いていれば外出先であっても最新の登記情報が閲覧できることにより、不動産取引の安全性が高まる反面、どこまで確認する責任があるかといいう問題も生じる恐れもあるだろう。

不動産登記の省力化による恩恵は誰に?

補助者を雇えない新人司法書士が決済の立会いをすることを考えると、更に違いを実感できるはずだ。

旧法の時代だったら、決済前に管轄法務局へ行って登記簿を閲覧してから決済の場へ向かい、決済が終わったらそのまま管轄法務局へ舞い戻って申請書を完成させ、登記申請をおこなうわけだ。補正日(現在の登記完了予定日)には、管轄法務局へ登記済証も取りに行かなければならないし、1件の業務を完了させるだけでも現在より大幅に時間がかかるのは間違いない。

しかしながら、開業したばかりの新人司法書士の場合、そもそも仕事の量が少ないのが通常だろうから1件の処理に時間がかかっても、大した問題にはならないかもしれない。そんなに仕事が入るならば、補助者を雇えばよいのだし。

不動産登記の省力化による恩恵は、10年以上前から開業している既存の司法書士事務所にこそ大きなメリットがあったとも考えられる。省力化が図れることで、大量の業務がおこなえるようなるため、営業力のある大きな司法書士事務所へより多くの仕事が集まるというわけだ。

不動産登記業務に関しては、10年前に比べて1件当たりにかかる時間が半減したといっても過言ではないだろう。どの業界でもIT化が進んだことにより省力化が実現しているのは間違いの無いところだが、司法書士業界に関してはより大きな変動がこの10年間で生じたわけである。

前回の記事(司法書士で新規開業して食えるのか)では司法書士1人あたりの不動産登記件数は10年間で7割に減少したと書いたが、件数が7割に減少し労力が半減したとすれば、仕事の量は10年前の3割5分に減ったことになる。そりゃ、暇な司法書士が多くなるわけで。

そんな業界をどうやって生き抜いていくべきか。それが分かれば誰も苦労しないんですけどね。