実際には紛失なんかしていないのだけど、無くしたかと思って焦ったお話し。

遺産分割協議書および委任状を依頼者宅に郵送し、署名押印後に返送してくださるようお願い。なかなか戻ってこないので、依頼者に状況を尋ねると、当事務所まで持参して郵便受けに入れたとのこと。

郵送ではなく郵便受けに直接入れたのならば、事故による不着などはあり得ない。また、郵便受けには鍵がかかっており、中を荒らされたような形跡もない。そもそも、この事務所で仕事をして10数年経つが、郵便受けからモノが盗まれたようなことは一度もないのであり。

この時点で自分の頭の中では、郵便受けに書類が入っていたという事実はないと確信していた。そして、かりに本当に郵便受けに入れたのだとしたら、別の部屋番号のところに間違って入れたとしか考えられないが、間違いなく○○号室に入れたとのお話し。

もう事務員が帰っている時間だったので、とりあえず明日に確認して連絡するとのことにした。そして、お渡しした書類は遺産分割協議書と委任状だけなので、もし見つからなければ再度お送りするとお伝えした。

まあ、事務所内で発見されることはあり得ないし、明日にでも依頼者に電話して再度書類をお送りすることにすれば良いと考えていた。

そんなわけで翌日に事務所へ出てみると、朝一番で電話が入り「こちらの手違いで書類はまだ手元にある」とのお話し。結局は、郵便受けに書類を入れたという話自体が間違いだったわけで、こちらには何の落ち度もなく一件落着。

まだそんなに年配の方ではないので、そんな勘違い?をしてしまうのは心配なことではあるが。嘘をついていたとは到底思えないし。

書類のやり取りを確実におこなう方法

この仕事をしていると書類の管理には非常に気を使う。手渡しで預かるときは預かり証を渡し、お返しするときは受領証に署名をいただくようにすれば、問題が生じることはまずないだろう。

しかし、郵送でやり取りするときは、郵便物自体が届かないということも稀に起こる。書留扱いにすれば届いたかどうかでトラブルになるのは避けられるが、全ての郵便物を書き留め扱いにするのはちょっと現実的ではない。

私の経験では、速達で送った郵便物がなかなか届かなかったことがある。諦めて再送することにしたのだが、しばらく経って配達員がやってきて「トラブルにより遅配が発生した」というような説明を受けた。

このときは、再送すれば済んだ書類なので大きな問題は生じなかったが、一歩間違えば取り返しの付かない事態になっていた可能性もあるわけだ。郵便物が届かないということはまず起こりえないとは思いつつも、過信するのは避けるべきだと痛感した出来事であった。

結局は、再発行が出来ないような書類については直接手渡しするのがベストだが、郵送するときには書留扱いにするべき。たとえば、権利証(登記識別情報通知)を郵送するならば、書留にするのは当然として、さらに受領証を返送してもらえるよう事前に頼んでおく。

送り状に送付書類の一覧を書き、受領証を入れておけば多くのトラブルは避けられると考えられる。まず、先方に届いた時点で書類が入っていないと言われたとしても、送り状に書いてある書類は全て入れたとの主張は認められやすいだろう。

封筒に入れるときに撮影しておくのが良いなんて話を聞いたこともある気がするが、封をする前に除いたに違いないなどと言われたらそれまでだし、あんまり意味がないようにも思う。そこまでするならば、書類をチェックして封筒に入れて糊付けするまでを動画で撮っておくなんてのはどうだろうか。

さらに、郵便局に行って受付してもらうまでノンストップで録画し続ければ確実。今の時代ならスマホでも動画撮影できるのだから、紛失したら一巻の終わりである書類を郵送するようなときには、やってみる価値があるかも知れない。

依頼者の記憶違いが最も危険

依頼者から、書類が届いたのに届いていないと嘘をつかれるようなことは、私の経験からすればあまり心配する必要はない。もちろん、仕事の内容などによっては、そういう危険性も考えるべきなのだろうが、たとえば相続登記のご依頼でそんな風な目に遭う可能性は低いだろう。

それよりも、日常業務の中で気をつけるべきは依頼者の記憶違い。間違いなく説明しているのにそんな話は聞いたことがないとか、渡した書類を受け取っていないとか、ご本人は確信を持って言っているときも多いので厄介。

対策としては、面談したときは何を話したか記録を残しておくようにしている。記録があれば、ご依頼者がそんな話は聞いたことがないと言われても、すでに話をしたと自信を持ってお答えできる。

ただし、これは依頼者をやり込めるのが目的ではなく、危険を回避するためなのであるから、依頼者のプライドを傷つけないように伝えるのが大事。それでも、聞いてないと怒りだしたときになって初めて、記録があると伝えるべきであろうか。

また、すでに説明したとの記憶があったとしても、一点の曇りもないような表情で「聞いてません」と言われると、こちらが不安になることもあるのが事実。そんなときのためにも、自分のためにメモを残しておくのは大事だろう。

話は最初に戻るが、今回のように郵便受けに入れていない書類を「間違いなく入れました」と言われたときはどうすれば良いのだろうか。これはもう、入れたか入れないかは争わずに書類を再発行して丸く収めるべきだろう。

それでも納得していただけない場合は、その時点で業務終了とするしかないか。絶対に預かっていないことを伝えて、その後の対応は相手にゆだねるとするしか方法はない。実際には預かっていない書類を巡って、訴訟を起こされるなんて目には絶対に遭いたくないが。

また、預かったとされる書類が、再発行が不可能なものである場合も問題だ。預かってもいない書類を紛失したとして、損害賠償を求められるなんて自体も避けたい。そう考えると、対面して書類を受け取るのを原則とすべきだとあらためて思うわけだが、今回の場合は何の予告もなく「郵便受けに入れておいた」と伝えられたわけだから難しい。

この仕事をしていると思ってもみなかったことが頻繁に起こるわけで、全てを予測して危険回避をするのは不可能であるというのが現実。それでも、出来る限りのことをして問題が起きないようにするのが大切。少なくともあと10年くらいはこの仕事を続けていかねばならないだろうし、安全第一を心がけて頑張らねばー。