抵当権抹消登記をする際、金融機関等から抵当権抹消書類を受け取ってから、登記申請をするまでに時間が空いてしまったために、抵当権者の代表者が変更になってしまっていることがある。

司法書士なら誰でも知っている話だが、旧代表者名で交付されている委任状によっても、抵当権抹消登記をおこなうことは可能である。

(代理権の不消滅)

不動産登記法第17条 登記の申請をする者の委任による代理人の権限は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。

一 本人の死亡

二 本人である法人の合併による消滅

三 本人である受託者の信託に関する任務の終了

四 法定代理人の死亡又はその代理権の消滅若しくは変更

上記の法定代理人には法人の代表者も含まれるので、抵当権者の旧代表者名で交付されている委任状によっても、抵当権抹消登記をすることができるわけだ。

たとえば、みずほ銀行から住宅ローンの借入れをしている場合、みずほ信用保証株式会社を抵当権者とする抵当権が設定されているだろう。

そして、みずほ信用保証株式会社の代表取締役は、平成29年6月23日に荒明治彦氏が辞任し、同日に木村誠氏が就任している。

したがって、平成29年6月23日よりも前に交付された抵当権抹消書類では、抵当権解除証書や委任状に書かれている代表取締役の氏名は荒明治彦氏となっているが、その委任状等を使用してこれから抵当権抹消登記をすることも可能だということ。

この場合には、登記申請書において「代表権消滅の旨及び代表権を有した時期を明らかにする」こととされている。

委任による登記申請代理権の不消滅は法人の代表者が代表権を失った場合にも適用されるので、代理権限証書の作成名義人が現在の代表者でないと認められるときでも、登記申請代理人が代表権消滅の旨及び代表権を有した時期を明らかにし、これを確認できる場合又は代表権限を証する書面が添付されているときは(印鑑証明書の添付を要するときはそれが提出されていることを要する)適法な代理権限証書として取り扱って差し支えない(平成5年7月30日民三5320)。

さらに、「これを確認できる場合又は代表権限を証する書面が添付されているとき」とあるので、抵当権者である法人の登記事項証明書当も添付する必要があった。

ところが、現在では当該法人の資格証明情報の提供に代え、登記申請書(申請情報)に会社法人等番号を記載するのが原則となっている。

今さら確認するまでも無いと思うが、不動産登記令等の改正に伴う添付情報の変更について(平成27年11月2日施行)のページに次のとおり記述がある。

資格証明情報の取扱いについて
 不動産登記等の申請をする場合に,申請人が法人であるときは,現在,当該法人の「代表者の資格を証する情報」(以下「資格証明情報」という。)を提供していただく必要がありますが,平成27年11月2日以後受付分の申請については,当該法人の資格証明情報の提供に代え,原則として,申請情報に会社法人等番号を記録又は記載していただくことになります。
 ただし,代表者の資格を確認することができる「作成後1か月以内の登記事項証明書」を提供していただいた場合には,会社法人等番号の記録又は記載は不要です。
 また,現在の資格証明情報の省略の取扱いについては,廃止します。

そのため、現在では「代表権消滅の旨及び代表権を有した時期を明らかに」する必要はあるものの、「これを確認できる場合又は代表権限を証する書面」の添付は不要になっている。

なお、今回例に挙げたみずほ信用保証株式会社の場合には、代表取締役が交代した時期が平成29年6月23日なので、次の交代の時期はしばらく先かもしれない。

しかし、その他の銀行等からの借入の場合の保証会社については、抹消書類の交付を受けてからそれほど時間が経っていないのに、代表取締役が変更になっていたということもあり得るだろう。

かつては、作成後3ヶ月以内の資格証明書が必要だったこともあり、「抵当権抹消登記の期限は3ヶ月以内」といわれることも多かった。それが今では、そのような期限が無くなっているので司法書士としては注意が必要だろう。

それこそ、事前にはちゃんと抵当権者の代表取締役の確認をしていても、登記申請日には代表取締役が変更になっていたということもあり得るわけだ。保証会社の代表取締役については、親会社である銀行のウェブサイトにも出ていない場合が多いと思われるので、簡単に確認をすることもできない。

不安であれば抵当権抹消登記の申請当日に登記事項証明書を取って代表取締役が変更になっていないかを確認するとか。このようなときには補正で対応するのでも、個人的には差し支えない気もしますが。

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