相続人の全員が相続放棄をしたため、法律上の相続人が不存在の状況になったのだが、被相続人名義の自動車がある。その自動車は年式が古く走行距離も多いため無価値だと考えられるのだけれども、これを処分するにはどうすれば良いのかとのご相談。

なお、以下は個人的な意見であり書いていることについては一切の責任を負いかねるので、実際に判断をするに当たっては専門家(弁護士、司法書士)に相談するようにしていただきたい。しかしながら、専門家の回答であっても首をかしげたくなるようなものを多く見かけるので、このように記事にする次第。

法律の規定は民法921条により、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときに単純承認したものとみなす」とされているのみなので、自動車を処分(廃車)したことで単純承認したものとみなされるのが心配なわけだ。ネットで調べると色んなことが書かれているので余計に心配になるのだろうか、自動車の処分について問い合わせをいただくことが多い。

法律相談サイトでの弁護士による回答などを見ていても、価値があろうと無かろうと相続放棄した人が処分すべきで無いとか、家庭裁判所へ相続財産管理人選任の申立をした上で、相続財産管理人による処分を待つべきであるなどと書かれているものもある。

たしかに、相続財産管理人を選任してもらうのが法律的に安心であるのは確かだろうが、財産的価値の無い自動車を処分するためにそのような手続きをおこなうのは現実離れしているのではないか。相続財産管理人選任の申立てをする際は、相続財産中に予納金を賄えるような現金があるような場合を除いては、最低でも数十万円の予納金が必要となるはず。

数十万円の予納金を支払ってでも安心のために相続財産管理人を選任してもらいたいというなら話は別だが、財産的価値の無い自動車を処分するためだけに相続財産管理人選任申立をしているという例がどれだけあるのだろうか。

それならば、自動車を処分することなしにずっと保管し続けるという方法もあるが、相続人全員が相続放棄した場合に、被相続人名義の自動車を皆が保管し続けているとしたら今頃はそのような自動車で街があふれていることだろう。

なお、自動車を空き地などに捨ててきたとしたら、それこそが処分に当たると考えられるので、保管するというならば自宅の車庫などで大事に保管しておかねばならない。

自動車以外にも、1人暮らしだった被相続人が借りていたアパートをどうするかという問題もある。この場合も、相続人全員が相続放棄してしまったらアパートを引き払うことも出来ないとして、財産的価値のあるものが何も残されていないようなときであっても、相続財産管理人選任の申立てがなされているのだろうか。

現実には、相続放棄をした場合であっても、自動車は処分しているし、アパートは引き払っているのが通常であろうと思われる。どちらも、財産的価値のなものを片づけているだけなのだから、単純承認とみなされる財産処分には当たらないと判断しても差し支えないはず。

それでも、やっぱり財産の処分だと考える人もいるだろう。たしかにそれも正論であるのかもしれないが、そうであればとっくに問題が起きているだろうし、現在に至るまでに膨大な数の裁判例が蓄積されているはずだ。

すでに家庭裁判所で相続放棄が受理されている場合に、その効力を争うならば、別に提起した民事訴訟によることになる(家庭裁判所に相続放棄の無効を求めるような手続は存在しない)。したがって、相続放棄した人が財産価値の無い自動車を処分してしまったために、その相続放棄が無効だと判断されたような事例が多数あるはずだということ。

しかし、実際にはそんな裁判例は見たことが無いし、そもそも財産的価値の無い自動車を処分したことを巡って誰が訴えを起こすというのだろうか。債権者から、自動車を処分したことをとがめられるのが心配だというならば、処分時の資料を保管しておけば良いだけの話。

繰り返しになるが、それでも財産の処分に当たる可能性がある行為はしたくないと考える人もいるかもしれない。そうであれば、相続財産管理人選任申立をするか、永遠に自動車を保管し続けるくらいしか方法は無いだろう。しかし、現実にそのどちらかを選択している例がどれだけあるというのか。

相続放棄の制度は別に最近出来たわけじゃ無いのだし、これまでにも同様の問題は数え切れないくらい存在していたはず。そのように考えれば、「財産価値が無い自動車であっても、相続放棄した人が自ら処分するのは絶対に避けるべき」なんて回答は出るはず無いと思うのだが。

最後に。ちょっと書き方が過激なところもあるかもしれないので、閲覧数が増えすぎたような場合は記事自体を削除するかもしれないです。間違ったことは書いていないつもりですが・・・。