結論からいうと、相続税申告の際に提出した戸籍謄本等の原本還付は不可能なようである。国税庁のウェブサイトの相続税の申告のしかた(平成29年分用)を見ると、「(参考)相続税の申告の際に提出していただく主な書類」として次のように書かれている。

  • 被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍の謄本(相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたもの)
  • 遺言書の写し又は遺産分割協議書の写し
  • 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)

遺言書または遺産分割協議書については「写し」と書かれているが、戸籍謄本、印鑑証明書についてはそのような記載が無いので原本の提出が必要であるということになる。

税理士事務所のウェブサイトなどにもそのような記述があるので、相続税申告の際の戸籍謄本、印鑑証明書は原本で無ければ駄目だということなのだろう。また、原本還付も出来ないようなので、税務署署提出用に戸籍謄本、印鑑証明書の原本を用意しなければならないわけだ。

ところで、法務局での不動産登記手続きでは戸籍謄本や印鑑証明書の原本還付が可能である。登記申請をおこなう際、いったんは原本を法務局へ提出する必要があるが、登記完了後には戸籍謄本や印鑑証明書の原本を返却してもらえる。

よって、まずは不動産の所有権移転登記(相続登記)をした後に、相続税の申告をするようにすれば戸籍謄本や印鑑証明書は各1通あれば済むことになる。これが、相続税申告→相続登記の順序にすると必ず2通ずつ必要になるわけだ。

さらに、相続手続きのための戸籍謄本や印鑑証明書は、銀行預金の解約などをおこなう際も手続きが完了したら原本を返却してもらえるのが通常だ。

なぜ、相続税申告のため税務署に提出する戸籍謄本などが原本還付不可なのかは分からないが、たんに原本還付に関する規定が無いとか、これまで要望が無かったからというような理由にも思える。相続税の額や相続税申告の税理士報酬からすれば、戸籍謄本等の取得費用など微々たるものだから誰も気にしなかったということか。

これが司法書士の場合は、相続登記の司法書士報酬など大したことないし、相続登記を必要とする方が全て資産家というわけじゃ無いから、戸籍謄本等の取得費用にも敏感になるし原本還付して欲しいとの要望も多かったと。この辺の理由付けは全くの想像に過ぎないが、当たらずとも遠からずな理由であるようにも思う。

余談だが、上記の「相続税の申告の際に提出していただく主な書類」には、被相続人の住民票除票、相続人の住民票が含まれていない。相続税の申告を先におこなった方でも、住民票を用意されていないことが多いのはそういうわけかと再認識。司法書士を10数年もやってきて今さら知ったのかと言われそうだが・・・。