相続登記の添付書類としての遺産分割協議書に添付した印鑑証明書を、連件で申請する贈与による所有権移転登記の登記義務者の印鑑証明書に援用できるのか。

相続した不動産を、そのまま贈与したいとのご依頼がたまにある。この場合、相続登記で遺産分割協議書に添付するための印鑑証明書1通と、贈与の登記における登記義務者の印鑑証明書1通の計2通をご用意いただくようにしていた。

登記実務上、相続登記で登記名義人となる相続人の印鑑証明書は添付しなくても差し支えないと思われるので、贈与による所有権移転登記の分の印鑑証明書だけあれば済む場合もある。

遺産分割協議書を添付して相続による所有権移転登記を申請する場合、右の協議書に添付すべき印鑑証明書については登記申請人以外の者の印鑑証明書で足りる(登研141号)。

しかし、遺産分割協議書に印鑑証明書を添付した上で、その印鑑証明書を贈与による所有権移転登記の添付書類に援用できないかというお話し。

だいぶ古いものだが、次の質疑応答がある。

相続登記申請書の添付書類たる遺産分割協議書に添付した印鑑証明書(当該協議書の真正を担保するため)を更に同日提出の他の登記申請書(抵当権設定登記)につき細則42条の印鑑証明書として援用することはできない(登研132号)

細則42条とは、旧不動産登記法の省令としての不動産登記法施行細則を指している。

不動産登記法施行細則42条(原文は旧仮名遣い)
所有権の登記名義人が登記義務者として登記申請をするときはその住所地の市町村長又は区長の作成したる印鑑の証明書を提出すべし。

私は旧不動産登記法で司法書士試験を受験しているので、「細則42条の印鑑証明書」と記憶している。現在の不動産登記法での規定の仕方は難解すぎて理解できないが、「所有権の登記名義人が登記義務者として登記申請をするとき」に印鑑証明書の添付が必要だということは変わりない。

上記の質疑応答では、「相続登記申請書の添付書類たる遺産分割協議書に添付した印鑑証明書」を、更に同日提出の他の登記申請書につき「細則42条(所有権の登記名義人が登記義務者として登記申請をするとき)の印鑑証明書」として援用することはできないとしているわけだ。

したがって、相続登記の添付書類としての遺産分割協議書に添付した印鑑証明書を、連件で申請する贈与による所有権移転登記の登記義務者の印鑑証明書に援用することはできないのが明確になった。

ただ、上記のとおり相続登記で印鑑証明書が不要な場合には、結果として印鑑証明書は1通で足りることになる。それでも、相続と贈与の登記に使う印鑑証明書は援用できないのだから、印鑑証明書は2通必要だと言い切ってしまっても差し支えないだろう。

印鑑証明書を追加でもらうのは難しい場合が多いだろうし、複数の印鑑証明書を渡すのに難色を示される場合もあるかと思うので、ちゃんと説明できるようにこの辺の知識は明確にしておきたいところ。

(2017/08/23 追記)
この記事へのアクセス数が多くなっているようなので少しだけ追記。結論としては、印鑑証明書を2通もらえば良いということなのだけれど、すでに1通を預かってしまいもう1通もらうのは難しいというときはどうすれば良いか考えてみた。

まず、相続と贈与の登記を連件で出すのではなく、相続登記が完了してから贈与の登記を申請するならば、印鑑証明書は1通で問題ない。相続登記申請書の添付書類たる遺産分割協議書に添付した印鑑証明書は原本還付が可能であるからだ。司法書士ならば誰でも分かる話なのでわざわざ書くまでもないことだが。

それでは、連件での申請であっても、「遺産分割協議書に添付した印鑑証明書」を「贈与による所有権移転登記の登記義務者の印鑑証明書」に援用するのではなく、1件目(相続)で原本還付を受けた印鑑証明書を、2件目(贈与)の登記に添付するというのはどうだろうか。

つまり、添付書類を「印鑑証明書(前件添付)」とするのは駄目だとして、原本還付を受けた印鑑証明書をその後にどう使おうが自由なのだから、何とか2件目の登記申請書に印鑑証明書を付けることができないかということ。

もしも、贈与の登記に使う印鑑証明書が原本可能ならば、申請書には印鑑証明書のコピーを付けておき、原本は相続登記のための戸籍などと一緒に綴っておけば良いような気もする。しかし、贈与の登記の印鑑証明書は原本還付できないのだから、申請書には印鑑証明書の原本を付けるしかない。

そうなると、前件である相続登記の申請書に付けた印鑑証明書のコピーの原本が、後件である贈与の登記の申請書に付いていることになり、さすがにそれで印鑑証明書の原本還付を受けるのは難しいように思える。

申請時に窓口で原本還付してもらうことが可能ならば、その場で、贈与の登記申請書に印鑑証明書原本を付けられることにはなるが、現在では窓口還付は不可なのでそれも無理。

結局は、相続と贈与を連件で申請する場合で、どちらにも印鑑証明書の添付が必要なとき、印鑑証明書を1通で済ますのは無理なのだろうか・・・。後はご自身で考えてください。