取下げの話など書きたくないのだが、申請中の商業登記を取下げることになってしまった。

ご依頼自体はとくに難しいところの無い役員変更登記であり、この10月から必要書類となった「株主の氏名又は名称,住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)」もちゃんと作成し、全く問題なく完了するはずであった。

ところが、取締役の就任日から10年間が経過していることを完全に見落としていた。事実関係をご依頼者に確認する必要があるが、任期満了による重任の登記を挟んでから辞任の登記をするしかないだろう。

こちらの失態であることは明らかだが、登記をせずに放ったらかしだった会社からの依頼は怖いと再認識。法務局からも別件で連絡が入った後、もう完了するかという時になって電話がかかってきた。

さすがに法務局は見逃さなかったが、商業登記は補助者に見せても分からないので全部自分でやっていることもあり、何か見逃していることはないかとヒヤヒヤしながらやっていることも多い。で、今回はまんまと見逃してしまったわけだ。

役員変更登記をしていなかったのは依頼者である会社の責任なので、一旦取り下げたうえで再度の登記が必要になると説明すれば、たぶん問題なく協力は得られるだろう。また、登記懈怠についての過料が課せられる可能性についても話をしておくべきだろう。

さて、商業登記の取下げなど初めてのはずなので一体どうやったら良いのか分からない。登記の取下げについて詳しい司法書士というのもいかがなものかと思うが。

しかし、現在では法務局のWebサイトに商業・法人登記の懇切丁寧な解説があるのでこういうときには助かる。ただし、登記申請をオンラインでしているので紙の取下書を使うのではなく取下げもオンラインで。

そして、登録免許税の納付もオンラインでおこなっているので、収入印紙の再使用証明を受けることはできない(というより、最初から収入印紙は存在しない)。

そのため、取下げにともない納付済みの登録免許税は還付してもらうしかなく、還付通知請求・申出書とともに、申請代理人が還付金を受領するための委任状も必要となる。

この辺のことを念のため法務局へ問い合わせて流れを理解。依頼者の協力さえ得られれば、そんなに大変なことにはならないようで一安心。

どっちにせよ取下げるのだし、あらためて印鑑をいただく書類もあるのだから、上記委任状に押印をいただくことくらい何の問題もないはず。それでも、オンラインで登録免許税を納付した場合、再使用証明の申出ができないというのは頭に置いておくべきだろう。

当事務所の場合、決済はほとんど無く、登記といえば相続などの事務所内でじっくりとおこなえるものばかりである。だからというわけでもないが、登記を取り下げることなどまず無いので、不動産登記もオンラインで申請し、登録免許税もオンラインで納付するのが当然だった。

けれども、他の司法書士が書いているブログ記事などを見ると、取り下げるときのことを考えて登録免許税は収入印紙で納付するなどという話もあってなるほどと思った次第。それでも、私は今後も全てオンラインで納付すると思うが。

とりあえず、今回の商業登記は一旦取り下げて、早急に再度申請をしよう。その前に、依頼者に連絡をせねば。

(2016/11/29追記)
その後、税務署からの銀行振込により、納付した登録免許税が無事に還付された。なお、法務局Webサイトの「記載例(還付金を登記の申請代理人が代理受領する場合)」には、添付書類として「委任者の印鑑証明書」と書かれているが、「還付通知請求・申出書」と「委任状」のみで問題なかったので念のため。委任状へは法務局への届出印を押しているのだから、別途印鑑証明書が必要であるはずが無いと思いつつも少し心配であったが。

(2017/06/01追記)
登録免許税の還付について詳しくなるのも考え物だが、納付し過ぎた登録免許税の還付手続きをすることになり調べていたところ、平成26年05月09日の法務省民二第272号民事第二課長及び商事課長依命通知により、「登録免許税の還付金を代理受領するための委任状の様式について」の取扱いが示されていた。

登記の申請代理人が登録免許税法(昭和42年法律第35号)第31条に基づく過誤納金が生じたことによる還付金を代理受領する場合の還付通知書に添付する委任状について、上記照会(平成21年3月31日付け法務省民二第844号)の別添様式の委任状に代え、登記申請の際の委任状に代理人の還付金受領権限が記載されているもの(別添様式)の写し(登記官が作成したもの)を添付することとして差し支えない。

上記別添様式の委任状には、委任事項として「登記に係る登録免許税の還付金を受領すること」が記載されている。この場合には、「還付通知請求・申出書」だけを提出すればよく、新たに委任状を用意する必要が無いわけだ。

今回は、上記委任事項が入っていたので、還付通知請求・申出書だけを法務局に持参し、問題なく受け付けてもらうことが出来た。おまじないのように入っている委任事項の一つ一つを深く考えることは無かったが、今回はおまじないに救われた。

なお、「還付通知請求・申出書」の備考欄に添付書類を書く際は、「還付金の代理受領権限を証する委任状 申請時の委任状を援用」とする。詳しくは、「登録免許税の還付金を登記の申請代理人が受領する場合の取扱いの留意点等」との文書も出ているので、そちらをご確認いただきたい。

登記を取り下げることなど滅多に無いとしても、登録免許税の過誤納が生じることは時折ある。今後は、不動産登記も商業登記もすべて委任状の委任事項に「登記に係る登録免許税の還付金を受領すること」と入れることにした。そうすれば、登録免許税を電子納付しても還付金の代理受領が簡単におこなえるというわけ。