本日は10月10日の体育の日。3連休最終日なので、司法書士で独立開業しようとしている皆様方に向けて興味深いデータを提供してみよう。

司法書士事務所を新規開業して果たして食っていけるのか。新規開業した司法書士の全員が食えるわけでも、誰もが食えないわけでも無いのは当然だが、現実としてのデータを見ておくことは大切だろう。

まず、司法書士の人数は次のとおり変動している。

・平成17年4月1日 17,735人
・平成27年4月1日 21,658人

司法書士の人数は10年間で122%に増加しているわけだ(ちなみに、平成28年1月1日では21,957人と更に300人ほど増えている)。

次に、司法書士の人数が増加しているのに対して、司法書士の業務の数はどうなっているのだろうか。普通に考えれば、市場が拡大しているからこそ参入者も増えるはずなのだが。

司法書士が手がける業務の範囲は広がっているとはいえ、不動産登記の占める割合がやはり高いのは事実。そこで、不動産登記件数の変動を見てみることにする。

不動産登記のうち、権利に関する登記事件数(土地と建物の合計)は次のとおりである(このブログをお読みの方ならば当然ご存じだろうが、不動産登記のうち司法書士がおこなえるのは権利の登記で、表示の登記は土地家屋調査士の業務である)。

・平成17年 10,181,112件
・平成26年 8,752,508件

権利に関する登記事件数は、86%に減少している。司法書士数は増加しているのに、不動産の権利の登記数は減少しているという恐ろしい傾向がハッキリと見て取れる。恐ろしいついでに司法書士1人あたりの不動産登記(権利の登記)の件数はどうなっているだろうか。

平成17年の不動産登記(権利の登記)の事件数10,181,112件を司法書士の人数17,735人で割ると、司法書士1人あたりの不動産登記件数は574件となる。一方、平成26年は8,752,508件と21,366人なので1人あたりの件数は410件である。

平成17年から平成26年で不動産登記(権利の登記)の1人あたりの事件数は71%に減少しているわけだ。

ごく単純考えると司法書士1人あたりの売上は10年間で7割に減少していることになる。この傾向がすぐに変わるとは思えないので、1人あたりの売上高は今後も減っていくものと予想される。

気が滅入ってきたのでもう終わりにしたいが、他の業務にも簡単に触れてみよう。

私が若手司法書士だった10数年前、新規開業者はクレサラ業務に取り組むのが常であった。自己破産申立てを取り扱う司法書士などごく少数だったので、まずはクレサラ業務を手がければ何とか食えたわけだ。

しかし、地方裁判所への自己破産申立件数(自然人のみ)は平成20年の129,882件が平成26年は65,393件に。個人再生事件は平成20年の24,052件が平成26年は7,668件とどちらも激減している。

過払い金の返還請求業務などはほぼ消滅しつつあるし、任意整理が増えているわけでも無いから、クレサラ関係の業務で新規開業した司法書士が食っていくのは難しいだろう。

最後に、近年の新規開業者であれば漏れなく取り組んでいるであろう成年後見業務はどうだろう。

司法書士が成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)に選任された件数は、平成22年が4,460件、平成26年は8,716件と大幅に増えている。たしかに増えてはいるが、全ての司法書士が取り組むとすれば、絶対数があまりにも少ない。

さあ、この数字を前にして、司法書士で新規開業して食えると言えるのだろうか。

10数年前であれば、司法書士が開業したとして仕事が無くて廃業した人はいないなどと言われたものだが。暗い話ばかりしても仕方ないので、そのうち明るい話題についても書いてみたいと思う。

なお、データは司法書士白書2016年のものを使用しているが、誤りが無いかなどについては各自ご確認いただきたい。

(18/05/28 加筆)
この記事へのアクセス数が相変わらず多いようなので、司法書士白書2017年の数字を追加する。それでも少し古いデータとなってしまうが、司法書士の数は増えているのに、不動産登記(権利の登記)の件数は減少するという状況に変化は無かった。

司法書士白書2017年によると、司法書士の人数は平成28年4月1日現在で22,013人となっている。平成17年4月1日の17,735人と比べると124%に増加している。

そして、平成27年の不動産登記(権利の登記)の件数は8,457,206件となっている。平成17年の10,181,112件と比べると83%に減少している。

平成17年の不動産登記(権利の登記)の事件数10,181,112件を司法書士の人数17,735人で割ると、司法書士1人あたりの不動産登記件数は574件となる。一方、平成27年は8,457,206件と22,013人なので1人あたりの件数は384件である。

平成17年から平成27年だと、不動産登記(権利の登記)の1人あたりの事件数は67%に減少している。平成17年と平成26年の比較では71%だったので更に減少しているわけだ。

さらに、平成26年の410件から、平成27年の384件への減少というのも恐ろしい数字。登記の件数は1年間、司法書士の人数は4月1日の数字なので、多少のずれはあるとしても傾向は明らかだといえるだろう。

今後、不動産登記の件数が増加していくとは思えないので、1人あたりの件数が増加するためには司法書士の数が減少するしか無いことになる。もちろん、司法書士の業務は不動産登記だけでは無いのだが、すべての司法書士が食っていけるだけの仕事が他にあるのだろうか。

加筆はしてみたものの何の救いも無い話になってしまいました。