この投稿は、相続資格が重複する場合の相続放棄について書いています。実際に取り扱ったケースを元にしていますが、私見による記述も含まれているため、あくまでも参考としてご覧ください。

調査不足のためもあり、事務所のブログに掲載するレベルの記事にならなかったので取りあえずここに載せます。もしも参考にするならば自己責任でお願いします。

1.第一順位相続人が2人以上の場合

1-1.長男Aのみが父の相続放棄をする場合

1-2.2人が同時に相続放棄をする場合

2.第一順位相続人が1人のみの場合

3.先順位の資格でした放棄の効果は後順位に及ぶのか

1.第一順位相続人が2人以上の場合

相続資格が重複する場合の相続放棄については、重複する資格が同順位である場合と異順位である場合とに分けて考える必要があります。

たとえば、下図のような相続関係では、長男Aは祖父母の養子となっているため、被相続人である父の子であるとともに、兄弟姉妹の地位も有しています。そのため、被相続人である父の子(第一順位)及び兄弟姉妹(第三順位)として相続人となるわけです。

相続資格が重複する場合の相続放棄1

1-1.長男Aのみが父の相続放棄をする場合

長男A、長女Bのうちで、長男Aのみが父の相続放棄をする場合、長男Aは子としての資格による放棄のみをすることになります。

現時点では、第一順位の相続人である長女Bがいるため、長男Aが兄弟姉妹(第三順位)として相続人になることはないからです。

もしも、その後に長女Bが相続放棄をした場合、長男Aが兄弟姉妹(第三順位)として相続人になるので、それから兄弟姉妹の資格による放棄をすることになります。

1-2.2人が同時に相続放棄をする場合

2人が同時に相続放棄申述受理の申立てをする場合には、重複する相続資格が異順位の場合であっても、同時に相続放棄することも可能です。

被相続人の妹としての相続資格と、被相続人の養子としての相続資格が重複している場合に、同時に双方の資格で相続放棄することも可能であるとの裁判例があります(京都地方裁判所昭和34年6月16日判決、家庭裁判月報12巻9号182 頁)。

この場合、家庭裁判所への申立てにあたり、重複する相続資格の双方について放棄する旨を明示するようにします。

2.第一順位相続人が1人のみの場合

下図のような相続関係では、長男Aは祖父母の養子となっているため、被相続人である父の子であるとともに、兄弟姉妹の地位も有しています。そのため、被相続人である父の子(第一順位)及び兄弟姉妹(第三順位)として相続人となるわけです。

相続資格が重複する場合の相続放棄2

ただし、相続人となる子が1人のみであるため、子としての資格により放棄すれば、ただちに兄弟姉妹として相続人となります。そのため、重複する相続資格が異順位の場合であっても、同時に相続放棄することが可能です。

2人以上いる子の全員が同時に相続放棄する場合に、重複する異順位の相続資格の双方についての放棄をするときと同様であるわけです。

3.先順位の資格でした放棄の効果は後順位に及ぶのか

先順位の資格でなされた相続放棄の効果が後順位の資格に及ぶかどうかについては、見解が分かれているようです。

先順位の資格でなされた相続放棄の効果が後順位の資格に及ぶのであれば、この記事のケースでいえば、子の資格として放棄するだけで当然に兄弟姉妹としての資格としても放棄したことになるわけです。

先例では当然に後順位の資格に及ぶとされていますが、学説においては、先順位の資格でなされた相続放棄の効果は、後順位の資格による放棄の効果を生じないとの説が有力であるようです。

被相続人の養子であり弟である身分を有する者が相続を放棄したときは、直系卑属及び兄弟としての相続権を放棄したものである(昭和32年1月10日民事甲61)

また、家庭裁判所の実務においても、資格毎に放棄するものとして取り扱われているようなので、異順位の相続資格を同時に放棄できる場合であっても、重複する相続資格の双方について放棄する旨を明示することが必要です。

さらに、第一順位の相続人が他にいるような場合には、子の資格として放棄した後に、あらためて、兄弟姉妹の資格として相続放棄すべき場合もあることになります。