相続登記の費用についてのお問い合わせをいただく際、「遺産分割協議書は自分で作るので、その方が司法書士費用は安くなりますよね?」というように尋ねられることがあります。

結論からいえば、相続登記のために作成する遺産分割協議書については、ご依頼者が自分で作成しても司法書士の負担は減りません。したがって、依頼者が自分で遺産分割協議書を作成したからといって、司法書士費用を安くはしたくないのが本心です。

なお、ここで言っているのは、不動産以外の財産も多数あって作成に手間がかかるような遺産分割協議書についてではありません。遺産分割協議書に記載する財産は不動産のみというようなシンプルなものを念頭に置いています。

※この投稿は一般の方の目に触れる可能性も高いかと思い、いつもと口調を変えています。もちろん、書いているのは同一人です。

遺産分割協議書を自分で作れば司法書士費用は安くなるか
1.遺産分割協議書の作成にかかる手間
2.作成した協議書のチェックは誰がするのか
3.遺産分割協議書の作成費用は節約できるのか
4.出来ることは自分でやれば安くなるのか

1.遺産分割協議書の作成にかかる手間

多くの司法書士は不動産登記専門のソフトウェアを使用しています。登記申請書や委任状の作成もそのシステムでおこないますし、さらに遺産分割協議書や相続関係説明図も簡単に作れるようになっています。

被相続人や相続人に関する情報(本籍地、住所、氏名、生年月日など)や、不動産の表示などはデータとして管理していますから、必要な書類を指定すれば簡単に出力できます。

毎回データを入力するわけではないので間違いもありません。とくに登記事項証明書については、手入力しているのではなく、データのままシステムに取り込みますから、多数の不動産があっても手間はほとんどかかりません。

このようにして、遺産分割協議書も他の書類とあわせて作成するので、遺産分割協議書だけをご依頼者が自分で作成したとしても、ほとんど手間は変わらないわけです。

2.作成した協議書のチェックは誰がするのか

上記のとおり書類作成の手間はほとんど変わらないので、遺産分割協議書の作成もおまかせいただきたいというのが、多くの司法書士が思っているところです。

それでも、「依頼者が自分で遺産分割協議書を作れば、司法書士の手間は僅かでも減るはずだ」と考える方もいらっしゃるでしょう。

ところが、多くの場合それは誤りです。「ご依頼者が自分で作成した遺産分割協議書をチェックするのは、司法書士が最初から書類を作成するのよりも手間がかかる」からです。

司法書士が法務局へ登記申請をする場合、提出する書類が間違っていたとすれば、それは司法書士の責任となります。依頼者が作った書類だから間違っていても仕方ないとの言い訳は通用しません。

結局、他人が作成した書類を全てチェックするのならば、書類作成のプロである司法書士が「いつものやり方によって、自分で作成した方が早いし確実」だということです。

3.遺産分割協議書の作成費用は節約できるのか

司法書士事務所によっては、遺産分割協議書の作成も任せてもらうのが原則としているところもあるようです。また、ご依頼者が作成した遺産分割協議書を使うとしても、司法書士費用は変わらないというケースもあるでしょう。

さらに、チェックに手間がかかるのだから、ご依頼者が遺産分割協議書を持参した場合の方が、費用を高くしたいと考える司法書士もいるでしょう(実際に高くしている例があるかは不明ですが)。

ただ、私自身の場合には、ご依頼者が作成した遺産分割協議書を持参したときには、遺産分割協議書の作成費用はいただかないようにしているのが通常です。

お問い合わせの時点で、遺産分割協議書まだ作成していないというときには、作成も任せてくださるようにはお伝えしています。それでも自分で作りたいという場合には、署名押印前に見せてくださるようお願いしています。

しかし、すでに作成したものがあるというときには、原則として無償でチェックしていますし、出来る限りその遺産分割協議書を使えるようにしています。訂正印もなく、そのまま登記申請に使うのが困難であるような場合、サービスで作成することもありますが、その辺はケースバイケースです。

4.出来ることは自分でやれば安くなるのか

ここまで書いてきたように、司法書士に相続登記などの業務を依頼する場合、書類作成をご依頼者がおこなっても司法書士の負担は少なくならないのが原則です。

また、法務局への登記申請も司法書士が代理人としておこないますし、遠方の法務局であってもオンライン(または郵送)により手続きします。したがって、「ご依頼者が自分で法務局へ行けば安くなる」というような話にはなりません。

ただし、相続登記に必要な、戸籍、住民票、固定資産評価証明書などについては、ご依頼者が自分で取得するのであれば、司法書士の手間は減ります。よって、これらの書類を全部ご自身で揃えるのであれば、司法書士に支払う費用が多少なりとも安くなる可能性はあります。

それでも、手間と費用を考慮すれば、戸籍等の請求についても司法書士に依頼した方が良かったとなることが多いはずです。どこまで頼むのが良いかを見極めるためにも、司法書士に相続登記を依頼するときには、費用の詳細と内訳についても説明を受けるようにするべきでしょう。