相続放棄した相続人は遺産分割協議の対象者になりません。したがって、遺産分割協議書に名前を記載する必要はありませんし、署名押印もしなくて良いのは当然です。そして、相続登記をする際には、相続放棄した相続人について家庭裁判所による相続放棄申述受理証明書を添付します。

ここで注意すべきなのは、子の全員が相続放棄したときには、後順位者に相続権が移る場合があることです。被相続人の父母が存命であれば相続人となりますし、父母が亡くなっていても兄弟姉妹(または、その代襲者)がいれば相続人となります。

よって、「被相続人の子たち全員が相続放棄すれば、被相続人の妻に不動産を相続させることができるとは限らない」のでご注意ください。父母は先に亡くなっている場合が多いとしても、「子の全員が相続放棄することで、兄弟姉妹に相続権が行く」ということを認識されていない方も多いので気をつけなければなりません。

いったん相続放棄をしてしまうと、取消しをすることは通常できません。不動産の相続登記や、相続放棄については、最初に司法書士などの専門家に相談してから手続きの進め方を決めるようにしましょう。


(以下は余談です)

さて、いきなりこんなこと書いたのは、まさかのミスをしかけたからである。

もしも、妻へ不動産を相続させるために、子たちに相続放棄させたいとの相談があったならば、そのようなことをせずとも遺産分割協議書に署名押印すれば済むとの提案をするのは当然のこと。

しかし、今回は既に子たちは相続放棄している状況で、放棄をしなかった妻に対して相続登記をしたいとの相談であった。

この場合、子たちの相続放棄申述受理証明書が必要なのは当然として、後順位の相続人がいないことが分かる戸籍等も当然に必要となるが、そのことがすっかり頭から抜け落ちていた。

結果としては、被相続人の父母の出生までさかのぼる戸籍を追加取得して事なきを得たのであり、そもそも、子たちが相続放棄をする時点で後順位者の有無を確認しているはず。

よって、予期せぬ相続人が現れることで登記が困難になるなんて可能性は低かったとしても、戸籍を取得することで腹違いの兄弟姉妹がいるのでも判明したら大変なことだった。

さらに付け加えておくと、子の全員が相続放棄している場合には、登記原因証明情報としての相続関係説明図に、父母の死亡などについての記載も必要となる。

このあたりも、後順位者の存在について頭が回らないとミスをしてしまうかも。いろいろとヒヤッとしたお話しでした。